MRSAのユニバーサルスクリーニング導入に関する考察★★

2008.08.31

Considering the introduction of universal MRSA screening


S.J. Dancer*
*Hairmyres Hospital, UK
Journal of Hospital Infection (2008) 69, 315-320
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対するユニバーサルスクリーニングを導入する病院が増加している。感染制御の名目で実施される他の多くの介入と同様に、MRSAのユニバーサルスクリーニングの有益性のエビデンスには依然として議論の余地がある。それにもかかわらず、スクリーニングには政治的関心が向けられ、今日では一部の国々では法的に義務化されている。本稿では、MRSAのユニバーサルスクリーニング導入の意義について検討する。必要となるリソースの問題に加えて、実施上の困難や実施がもたらす影響について十分に考慮されていないと考えられる。すなわち、検査室の職員の採用および勤務時間の調整、対象とするスクリーニング部位と検査法ごとの感度と特異度、病棟の隔離施設の不足、MRSA感染または保菌患者の適時的かつ継続的な管理、保菌職員が与える影響を考慮せずに患者のスクリーニングを行うことの倫理上の問題などである。さらに、MRSAを注視することによりMRSAの重要性が過度に強調され、法的な関心を促す可能性がある。MRSAの制御に寄与するのは、単にスクリーニングを実施すること自体ではなく、新規MRSA患者を発見した場合の迅速な行動であることを念頭に置くべきである。MRSA制御の方法としてユニバーサルスクリーニングを検討すべきであることに疑いの余地はないが、このスクリーニングをルーチンに行うにはさらなるエビデンスが必要である。
サマリー 原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
ユニバーサルスクリーニングとは、全入院患者を対象に行うMRSAスクリーニング検査である。しかしながら、全入院患者に占める保菌率は3%前後にとどまる。順天堂医院では、以前に保菌歴がある患者を対象に、再入院時にスクリーニングを実施しているが、保菌率は30%前後であり、潜在的保菌者を検出する効率は10倍高いことになる。スクリーニングを早期に実施し対象者をMRSA保菌者とみなして対応することで、感染対策を早期に実施することができ、病院全体で院内伝播を削減できた。しかし、結果が判明するまでの3日間の感染対策実施のコンプライアンスが今後の課題である。これについては、秘策を考えているので、お楽しみに。
監訳者注:
英国では医療系スタッフのスクリーニングの実施には消極的で、あらゆる対策をやりつくしてもなおアウトブレイクが収まらない場合などに限られている。もしスタッフが保菌しているとなれば、MRSAを媒介するリスクは保菌患者以上であろうに、「そこは棚上げしておいて患者ばかりスクリーニングしてもいいのか?」という問題が議論されている。

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