カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌に対する直腸スワブを用いたルーチンの積極的サーベイランス:マルチプレックス PCR 法の診断上の意義

2014.10.31

Routine active surveillance for carbapenemase-producing Enterobacteriaceae from rectal swabs: diagnostic implications of multiplex polymerase chain reaction


W. Lowman*, M. Marais, K. Ahmed, L. Marcus
*Vermaak and Partners Pathologists, South Africa
Journal of Hospital Infection (2014) 88, 66-71
背景
カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)保菌のスクリーニングは、重要な感染予防・制御戦略と考えられている。スクリーニングはこれまで主として培養に基づいて行われてきたが、PCR 法によるスクリーニングが主流となりつつある。現時点ではゴールドスタンダードのスクリーニング法は存在していないため、積極的サーベイランスでは複数の診断戦略の意義を考慮することが重要である。
目的
積極的サーベイランスの一環として、種々の病院の入院患者からの CPE 検出を目的としたマルチプレックス PCR 法によるスクリーニング戦略の有用性を評価すること。
方法
CPE 保菌リスクを有すると考えられる種々の病院の患者から、単回の直腸スワブ採取を行った。米国疾病対策センター(CDC)の修正培養プロトコールと、PCR 法による blaNDMblaKPCblaOxA-48-likeblaMP、および blaGES 遺伝子検出を比較した。
結果
連続的に採取した直腸スワブ 251 サンプル中 30 サンプルが、PCR 法により 1 つ以上のカルバペネマーゼ遺伝子陽性であった。15 サンプル(50%)は培養陽性であり、このうち CPE は 6 分離株のみであった。PCR 法による CPE 検出は、感度(100%)、特異度(89.8%)、および陰性的中率(100%)が良好であったが、陽性的中率はカルバペネマーゼ産生グラム陰性菌 46.6%、CPE 16.6%のみであった。
結論
直腸スワブを用いた PCR 法による CPE 検出性能は見かけ上は良好であったが、その評価にあたっては CPE 保菌率が高いことが事前に判明していたことを差し引く必要があり、また特定の疫学的状況に限定して解釈しなければならない。スクリーニングツールとしての PCR 法に基づく手法の臨床的有用性を培養と比較評価する、さらなる研究が必要である。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
肛門スワブを用いて抄録に示す 6 種類のカルバペネマーゼ産生遺伝子を、マルチプレックス PCR によって 1 度に検出するスクリーニング方法について評価した論文である。本研究では培養検査結果と比較すると、blaVIM 遺伝子が陽性になった検体の多くで腸内細菌ではなく緑膿菌が検出されたため、「カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌のスクリーニング方法」としては臨床的有用性に欠けると結論している。ただし、これはスクリーニングを行うセッティングによって異なるだろう。日本では blaIMP を保有するカルバペネマーゼ産生腸内細菌が問題になっているが、同遺伝子を保有する緑膿菌も報告されており、肛門スワブ検体を用いた PCR だけでは本研究と同様に腸内細菌科と緑膿菌を鑑別できないかもしれない。PCR 法を用いたスクリーニング法は MRSA では一定の成績が報告されているが、腸内細菌科ではまだ解決すべき問題が多いようだ。

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