急性期ケア時の接触予防策の多剤耐性病原体伝播に対する効果:文献のシステマティックレビュー★★

2015.08.31

Effectiveness of contact precautions against multidrug-resistant organism transmission in acute care: a systematic review of the literature


C.C. Cohen, B*. Cohen, J. Shang
*Columbia University School of Nursing, NY, USA
Journal of Hospital Infection (2015) 90, 275-284
多剤耐性病原体(MDRO)伝播の予防には、接触予防策が広く推奨されている。しかし、その効果に関するデータは相反するものである。これまでのシステマティックレビューでは、大きなバンドルアプローチの一部としての接触予防策について評価を行っているため、その効果を判定するには限界があった。本総説の目的は、急性期ケア時の成人患者における MDRO 伝播に対する接触予防策の単独での効果を明らかにすることである。2004 年 1 月から 2014 年 6 月に英文で発表された研究について、Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses(PRISMA)声明に従って 4 つの科学文献電子データベースの包括的検索を実施した。対象は、入院患者間の MDRO 伝播に対する接触隔離予防策の評価を行っている介入研究の原著論文とした。検索結果として 284 件の研究が得られ、このうち 6 件を本総説の対象とした。これらの研究は 4 種類の MDRO を評価しており、1 件の研究では伝播が減少することが示されていた。これらの研究はアウトカムの設定・記述や統計学的解析の質は高かったが、不十分な点として介入に関する記述、集団の特性評価、および潜在的なバイアスなどが挙げられ、全般的な質は中等度から低度であった。遵守状況の評価を実施していた研究(4 件)では、介入の一部のみ(21% ~ 87%)を評価項目としており、また研究の段階によって評価項目が大きく異なっていた(2 件)ため、その妥当性が懸念されるものであった。今回のテーマに関するエビデンスの質は低いため、これらのデータから解釈できることは依然として限定的である。したがって、相反する点があるこれらの文献は、接触予防策の適否のエビデンスとはならない。今回のテーマに関する今後の研究をデザインする際には、研究者は検出力の算出、遵守のモニタリング、および不等価同時対照群(non-equivalent concurrent control)について考慮することを推奨する。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
急性期ケア時の成人患者における MDRO 伝播に対する接触予防策の単独での効果を明らかにすることを目的としたレビューである。最終的に対象となった 6 報のうち、4 報はランダム化されていない quasi-experimental study(準実験的研究、疑似実験的研究などと訳される)で介入の前後で比較したもの、2 報は repeated treatment design(反復測定デザイン)であり、ランダム化比較試験はなかった。このことや、各論文の質の評価でスコアの低い部分は、感染症対策の評価の難しさを感じさせられるものであった。
論文をしっかり読み込みたい人や自施設で疫学研究を行いたい人にとって、論文の評価手法を知ることはとても大切である。

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