行動変容の心理学的枠組みの適用による医療従事者の手指衛生改善:システマティックレビュー★

2015.11.30

Applying psychological frameworks of behaviour change to improve healthcare worker hand hygiene: a systematic review


J.A. Srigley*, K. Corace, D.P. Hargadon, D. Yu, T. MacDonald, L. Fabrigar, G. Garber
*Public Health Ontario, Canada
Journal of Hospital Infection (2015) 91, 202-210
背景
医療関連感染症の伝播予防には手指衛生が重要であるにもかかわらず、その遵守率は不十分である。手指衛生は複合的な行動であり、また医療従事者の行動に影響を及ぼすツールとして心理学的枠組みは有望である。
目的
(i)医療従事者の手指衛生遵守の改善を目的とした、行動変容の心理学的理論に基づく介入の効果をレビューすること、(ii)医療従事者の手指衛生遵守を予測するために用いられている枠組みを明らかにすること。
方法
複数のデータベースおよび当該研究の引用文献リストから、医療従事者の手指衛生を改善または予測するために心理学的理論が用いられている研究を検索した。2 名の評価者が、選択、データ抽出、および質の評価の全段階を独立して実施した。
結果
検索により 918 件の文献が特定され、このうち 7 件が適格基準に合致した。4 件の研究は、心理学的枠組みによる手指衛生介入を評価していた。介入は、目標設定、制御理論、オペラント学習、陽性強化、変容理論、予定行動理論、多理論統合モデルなどに基づくものであった。3 件の行動予測に関する研究は、予定行動理論、多理論統合モデル、および理論的ドメイン・フレームワークを採用していた。手指衛生遵守改善のための介入は有効であることが示されていたが、研究のバイアスは中等度から高リスクであった。多くの研究では、介入の特性に行動変容理論がどのようにかかわっているかについては明確ではなかった。行動予測に関する研究の結果は一致しなかった。
結論
行動変容理論は手指衛生改善のための有望なツールであるが、これらの理論は十全な検討は行われていない。本総説からは文献には大きな乖離がみられることが明らかとなり、新たな研究の方向性が示唆された。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
これまで多くの手指衛生改善のための研究がなされてきているが、ケア場面への手洗い製剤・手指消毒剤の配置、教育と訓練、注意喚起、病院管理側の支援、手洗い・手指消毒遵守率の測定などの多面的アプローチが主体であって、劇的あるいは持続的な改善は十分に得られていない。手指衛生行動は様々なプラス因子とマイナス因子が絡み合う複雑なものであり、心理学的なアプローチが必要とされている。しかしながら。これまで行動変容のための心理学的理論を論文中に明確に記載し、利用しているものはわずかであった。本レビューでは手洗い・手指消毒を適切に実施できるように職員の行動変容をもたらすための心理学的アプローチの可能性に言及するとともに、今後の研究の必要性を強調している。

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