黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の乾燥表面バイオフィルムは次亜塩素酸ナトリウムで殺菌されない:感染制御への影響

2016.07.13

Staphylococcus aureus dry-surface biofilms are not killed by sodium hypochlorite: implications for infection control


A. Almatroudi*, I.B. Gosbell, H. Hu, S.O. Jensen, B.A. Espedido, S. Tahir, T.O. Glasbey, P. Legge, G. Whiteley, A. Deva, K. Vickery
*Macquarie University, Australia
Journal of Hospital Infection (2016) 93, 263-270
背景
乾燥した病院環境はバイオフィルム中の病原菌で汚染されており、現在の清掃および消毒薬に問題があると考えられる。
目的
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の乾燥表面バイオフィルムに対する次亜塩素酸ナトリウム溶液の有効性を検討すること。
方法
米国疾病対策センター(CDC)の Biofilm Reactor を適応させ、12 日間にわたる増殖と脱水のサイクルを交互に行うことにより、試験片あたり黄色ブドウ球菌 1.36 × 107 が含まれる乾燥表面バイオフィルムを作成した。バイオフィルムの検出は、live/dead 染色による共焦点レーザー顕微鏡を用いて定性的に、超音波処理生菌数およびクリスタルバイオレット法を用いて定量的に行った。次亜塩素酸ナトリウム(1,000 ~ 20,000 ppm)を乾燥表面バイオフィルムに 10 分間適用し、試験片を 3 回洗い、バイオフィルムの残存生存率を CLSM、菌数、最長 16 日間の長期培養により決定した。曝露前後の分離株の最小発育阻止濃度および最小殺菌濃度試験を行い、1 組について全ゲノムシークエンシングを行った。
結果
次亜塩素酸塩曝露により、菌数は 7 log10 減少し、バイオフィルムバイオマスは 100 分の 1 に減少した。しかし、残存バイオフィルムの染色は、黄色ブドウ球菌生細胞が残存していることを示した。長期に培養すると、黄色ブドウ球菌は再増殖してバイオフィルムを形成した。最小発育阻止濃度および最小殺菌濃度は、曝露後の黄色ブドウ球菌分離株と親株で大きくは変わらなかった。曝露前後の 1 組の全ゲノムシークエンシングから、曝露前後の菌株は事実上同一であることが示された。
結論
次亜塩素酸塩曝露により7 log の殺菌が得られたが、菌は再増殖した。耐性突然変異は認められなかったことから、次亜塩素酸塩耐性は黄色ブドウ球菌のバイオフィルムに固有の性質であることが示唆され、その臨床的重要性をさらに検討する必要がある。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
本研究は、バイオフィルム中の黄色ブドウ球菌が20,000 ppmの濃度の次亜塩素酸ナトリウム処理後にも残存していることを示したものである。結論にもあるとおり、このような残存微生物が臨床的にどのような影響を及ぼすかは今後の検討課題であるが、バイオフィルム感染症、あるいは環境中のバイオフィルムの感染管理上の問題を示唆する結果といえる。

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