抗菌薬管理プログラムが救急部外来患者の抗菌薬使用の最適化に及ぼす影響★★

2017.11.30

Impact of an antimicrobial stewardship programme to optimize antimicrobial use for outpatients at an emergency department


A. Dinh*, C. Duran, B. Davido, F. Bouchand, L. Deconinck, M. Matt, O. Sénard, C. Guyot, A.-So. Levasseur, J. Attal, D. Razazi, T. Tritz, A. Beauchet, J. Salomon, S. Beaune, J. Grenet
*Raymond Poincaré University Hospital, Versailles Saint Quentin University, France
Journal of Hospital Infection (2017) 97, 288-293
背景
抗菌薬管理プログラム(antimicrobial stewardship programme;ASP)は入院患者の抗菌薬使用の最適化に有効であったが、目まぐるしく患者が移動する救急部の臨床現場で ASP を成功させるのは難関である。
目的
2015 年 4 月、外来患者の抗菌薬使用に対する ASP の効果を明らかにするため、当救急部で ASP を実施した。
方法
本研究は、ASP 実施前の 1 年間(2012 年 11 月から 2013 年 10 月)と、実施後の 1 年間(2015 年 6 月から 2016 年 5 月)の抗菌薬処方の質を比較した単施設研究であった。施設の抗菌薬処方指針の遵守状況を評価するため、感染症専門医 1 名および救急部担当医師 1 名が各期間におけるすべての成人外来患者(入院期間が 24 時間未満)の抗菌薬処方を評価し、続いて不適切な処方を分類した。
結果
ASP の実施前後で、当救急部においてそれぞれ 34,671 件および 35,925 件のコンサルテーションが登録され、そのうち 25,470 件および 26,208 件が外来患者であった。抗菌薬が処方されたコンサルテーションはそれぞれ 769 件(3.0%)および 580 件(2.2%)であった(P < 0.0001)。ASP の実施前後の指針不遵守件数はそれぞれ 484 件(62.9%)および 271 件(46.7%)であった(P < 0.0001)。不遵守の内訳は、抗菌薬の不要な処方が 197 件(25.6%)対 101 件(17.4%)(P < 0.0005)、不適切なスペクトルの抗菌薬使用が 108 件(14.0%)対 54 件(9.3%)(P = 0.008)、過剰な抗菌薬投与期間が 87 件(11.3%) 対 53 件(9.1%)(P > 0.05)、不適切な抗菌薬の選択が 11 件(1.4%)対 15 件(2.6%)(P > 0.05)であった。
結論
ASP の実施によって、不要な抗菌薬処方の件数は顕著に減少したが、不適切な処方における他の大半の側面への影響はほとんどなかった。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
救急現場(ED)での外来患者への ASP は、患者の在院時間が短時間でかつ来院回数が限られているなど通常の入院患者における ASP とは実施環境が大きく異なるため、効果的なASP は難しい。本論文では、①感染症専門医(IDS)が ED での抗菌薬処方について勤務時間の 2 割を費やしアドバイスを実施、②半年に 1 度 EDで遭遇する感染症を中心に IDS による抗菌薬処方の勉強会、③感染症に特化した診療ガイドラインのハンドブックを配付、④勤務時間中は個々の症例への相談を IDS にできる体制、⑤適切な処方を推進できるように毎日のミーティングで優秀者の発表、⑥週 2 回細菌培養結果と処方抗菌薬を IDS がチェックなどのプログラムを実施した。その結果、処方量の減少(不必要な抗菌薬処方の減量)には成功したが、過剰な抗菌薬投与期間や不適切な抗菌薬選択を修正することができなかった。しかしながら、ED での ASP の効果的な実施には処方チェックをしてくれる専任の IDS または感染症薬剤師が必要である。

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