実臨床における微生物定着を減少させるために表面に微細な凹凸構造が加工されたフィルム★

2018.01.31

Micro-textured films for reducing microbial colonization in a clinical setting


A.R. Mendez*, T.Y. Tan, H.Y. Low, K.H. Otto, H. Tan, X. Khoo
*Singapore University of Technology and Design, Singapore
Journal of Hospital Infection (2018) 98, 83-89
背景
病院環境における微生物の伝播は、患者のベッドやオーバーベッドテーブルなど、高頻度接触面とヒトとの相互作用によって高頻度に生じる。微生物の伝播を最小限に抑える予防策としてルーチンの厳格な清掃が実施されているが、高頻度接触面には抗菌活性を有する素材を用いることが望ましい。固体表面の物理的な凹凸構造の加工は、高頻度接触面への微生物の定着を制御する非殺菌性の方法を提案するものである。
目的
表面に微細な凹凸構造を加工したポリカーボネート製フィルムが病棟内のオーバーベッドテーブル上の細菌数減少に有効かどうかを検討すること。
方法
2 種類のパターンの微細な凹凸構造をポリカーボネート製フィルムに熱転写法で加工作成した。その後、微細な凹凸構造が加工されたフィルムを一般病棟の患者用オーバーベッドテーブルに設置し、細菌数を 24 時間モニタリングした。表面上の細菌数を表す総コロニー数およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus)数を各時点でモニタリングした。
結果
微細な凹凸構造が加工された表面2 種類とも、微細な模様が施されていないポリカーボネートおよびオーバーベッドテーブルの剥き出しのラミネートと比較して、24 時間にわたり細菌数の減少が一貫して認められた。本研究によって、マイクロ単位での物理的な凹凸構造の加工によって固体表面の細菌定着が減少しうるという、これまでの実験室規模での研究結果が裏付けられた。
結論
本研究結果から、微細な凹凸構造の表面加工は、院内の高頻度接触面における微生物汚染の実施可能な抑制方法となる可能性があることが示唆された。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
医療施設内感染における病院環境の重要性が、汚染環境を介して耐性菌をはじめとする多くの病原体が医療従事者や医療器具を介して拡がってゆくため、長年強調されている。これまで多くの抗菌製品が開発されてきたが、臨症的効果については決して十分に解明されているとは言えない。一方で本論文はマイクロメーターあるいはナノメーター単位での微細な凹凸構造を表面加工するという非殺菌的な方法での新たなアプローチであり、表面加工のないものよりも加工した表面の方が、細菌の定着が少なくなることを実際に証明したものである。ただし、交差感染減少に寄与するかどうかは今後さらなる研究を待たねばならない。

同カテゴリの記事

2006.08.31

Reducing the potential for phlebotomy tourniquets to act as a reservoir for meticillin-resistant Staphylococcus aureus

2009.03.31

Mathematical model for the control of nosocomial norovirus

2020.10.30
Stockpiled N95 respirator/surgical mask release beyond manufacturer-designated shelf-life: a French experience

D. Brun*, C. Curti, T. Mekideche, A. Benech, I. Hounliasso, E. Lamy, C. Castera, P. Rathelot, P. Vanelle
*Service Central de la Qualité et de I’Information Pharmaceutiques (SCQIP), France

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 258-263
 
JHIサマリー日本語版サイトについて
JHIサマリー日本語版監訳者プロフィール
日本環境感染学会関連用語英和対照表

サイト内検索

レーティング

アーカイブ