プロバイオティクスにより抗菌薬関連下痢症は予防できるか?多施設共同無作為化プラセボ対照試験の結果★

2020.06.30

Do probiotics prevent antibiotic-associated diarrhoea? Results of a multicentre randomized placebo-controlled trial
C. Rajkumar*, M. Wilks, J. Islam, K. Ali, J. Raftery, K.A. Davies, J. Timeyin, E. Cheek, J. Cohen, on behalf of the Investigators
*Universities of Brighton & Sussex, UK
Journal of Hospital Infection (2020) 105, 280-288


背景
抗菌薬関連下痢症は、抗菌薬使用の副作用であり、プロバイオティクスは抗菌薬関連下痢症を抑制することが示されている。
方法
多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験を実施して、55 歳超の患者を対象に、抗菌薬関連下痢症およびクロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)感染症の抑制における Lactobacillus casei DN114001(一般的な2 種類のヨーグルト配合細菌株を組み合わせた飲料とした)の役割を評価した。主要アウトカムは、2 週間の追跡調査期間中における抗菌薬関連下痢症の発生率とした。
結果
患者計 1,127 例(平均年齢 ± 標準偏差:73.6 ± 10.5)が、実薬群(N = 549)またはプラセボ群(N = 577)に無作為化された。両群について、プロトコールに従って追跡調査を行った。追跡調査期間中に抗菌薬関連下痢症をきたした患者の割合は、プロバイオティクス群では 19.3%(549 例中 106 例)であったのに対し、プラセボ群では 17.9%(577 例中 103 例)であった(未補正オッズ比 1.10、95%信頼区間 0.82 ~ 1.49、P = 0.53)。
結論
複数の英国の病院から登録されたこの高齢者集団において、抗菌薬関連下痢症の予防に関して特定のプロバイオティクス製剤に有益な効果があるという有意な所見は認められなかった。しかし、英国および他の多くの医療システムにおいて近年、抗菌薬適正使用支援における多くの変更、C. difficile 感染症発生率の全般的な低下、ならびに感染予防に対する意識向上、および看護実践における変更が認められてきた。これらの因子を考慮すると、今回の試験から、研究で用いられたプロバイオティクス製剤は抗菌薬関連下痢症の予防に役立たない、と最終的に結論付けることはできず、著者らの見解として、これらの変数の補正を行って、さらなる試験を実施する必要があると考える。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
腸内常在細菌叢は、外部からの病原菌と競合して、栄養、腸管粘膜の表面レセプター、物理的スペースを守り、外敵の侵入を阻止し、腸内環境を最適に維持している。いわゆる「コロニゼーション・レジスタンス(定着阻止)」と呼ばれるものである。しかしながら、抗菌薬はこのバランスを崩し、外部の細菌の定着を許し、抗菌薬関連下痢症の原因となる。高齢者における腸管環境維持能力の低下(加齢による免役力低下)にともない発生する下痢、抗菌薬関連性下痢、CD 腸炎をプロバイティクス(細菌製剤)により防げないかとこれまで様々な研究が実施されてきたが、有用性が示唆されているものの、研究デザインと使用プロバイオティクスに多様性がありすぎるため、明確な有効性を結論づけるまでは至っていないというのが現状である。

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