ヒータークーラーユニットの消毒時における非結核性抗酸菌の根絶失敗:イタリア北西部における微生物学的研究の結果

2020.11.30

Failure to eradicate non-tuberculous mycobacteria upon disinfection of heaterecooler units: results of a microbiological investigation in northwestern Italy
S. Ditommaso*, M. Giacomuzzi, G. Memoli, C.M. Zotti
*University of Turin, Italy
Journal of Hospital Infection (2020) 106, 585-593


背景
心肺バイパス時に用いられるヒータークーラーユニットには、マイコバクテリウム・キマイラ(Mycobacterium chimaera)などの非結核性抗酸菌(NTM)が定着することがある。最近、入院感染患者を対象とした世界規模の研究から、LivaNova が製造したいくつかのStockert 3T ヒータークーラーユニットで M. chimaera が検出された。
目的
Stockert 3T(LivaNova)および Maquet HCU40(Getinge)の両デバイスに対する微生物学的サーベイランス、ならびにこれらのデバイスで推奨されている汚染除去プロトコールの有効性についての評価。
方法
水サンプル計 308 個がヒータークーラーユニット 29 個 で採取され、サンプル 264 個は 3T ヒータークーラーユニットデバイス 17 個から、サンプル 44 個は Maquet HCU40 デバイス 12 個からであった。これらのサンプルについて、22°Cおよび 36°Cの両方における総生菌数、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌群、および NTM について検査を行った。微生物学的サーベイランスは 2017 年 6 月に開始し、2019 年 10 月まで継続した。
結果
ヒータークーラーユニットの水サンプル計 308 個を分析し、うち 65.5%で NTM が回収された。NTM の定着頻度が最も高かったデバイスは Stockert 3T(88.2%)で、陽性サンプルの頻度は 59.5%(264 個中 157 個)であった。Maquet HCU40 デバイスでは、NTM の回収頻度はより低く(33.3%)、陽性サンプルの頻度は 13.6%(44 個中 6 個)であった。消毒手順は、NTM 種を除き、総生菌数の低減において効果的であった。NTM は、消毒前(50.1%)および消毒後(55.7%)の両方のサンプルで検出され、Stockert 3T および Maquet HCU40 の両デバイスにおいて、消毒と NTM の結果との間に有意な関連は認められなかった。
結論
本研究から、製造者の消毒手順は非効果的および/または不十分であることが示唆される。効果的な消毒プロトコールが利用可能になるまでは、NTM による汚染リスクを抑えるための唯一の方法は、ヒータークーラーユニット内の水の質を綿密にモニタリングすること、水を可能な限り清潔に保つこと、そして水を他のバイオハザード物質と同様に扱うことである。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
胸部心臓外科手術において使用されるヒータークーラーユニットは、患者体温、心臓保護液、人工心肺の加温と冷却をおこなう装置であり、本来閉鎖回路であることから回路内の水が患者の血液や体内に侵入することはない。しかしながら、これらの回路内の水が非結核性抗酸菌汚染されていることが明らかとなり、その結果、1/100 から 1/1000 の確率で術後の感染症が発生することが報告されている。その原因としてはこれらの循環水のエアロゾル化により、手術野が抗酸菌により汚染され、感染症が発生し、最大 50%の死亡率があるとされている。M.chimaera は環境に広く分布しており、汚染が容易に発生しうる可能性があるため、米国疾病予防管理センター(CDC)と米国食品薬品局(FDA)および欧州疾病予防管理センター(ECDC)はこの装置の保守管理を製造メーカーの指示に従うことを推奨している。

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