入院時の普遍的スクリーニング:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の有病率が高い病院におけるゲームチェンジャーの可能性★★

2021.07.31

Universal admission screening: a potential gamechanger in hospitals with high prevalence of MRSA

M.A. Borg*, D. Suda, E. Scicluna, A. Brincat, P. Zarb
*University of Malta, Malta

Journal of Hospital Infection (2021) 113, 77-84



緒言

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)は高所得国では現在制御されているという認識にもかかわらず、世界的な有病率は高いままであり一部の地域では上昇さえしている。一部の病院では制御を試みて入院時の普遍的スクリーニングおよび除菌が開始されているが、その実践は依然として議論の余地がある。

 

方法

2014 年にマルタの Mater Dei 病院は、高い遵守率と低費用を達成するために一元化およびカスタマイズされた新たな手法を用いた入院時の普遍的スクリーニングの方針を導入した。リスク因子に関係なく、指定されたスタッフにより発色基質を含む培地を使って入院時に鼻腔スクリーニングが行われる。保菌者には同時隔離や接触予防策を行わずに除菌を行った。本研究では、ブドウ球菌の臨床分離株における MRSA の割合(%MRSA)および 1,000 在院患者延数あたりの発生率に対する本介入の影響を分析するために、時系列分析を用いて縦断的・準実験的評価を行った。本介入により得られたおよその質調整生存年(QALY)を明らかにするため、費用/効用分析も試みた。

 

結果

伝達関数モデルの手法によって、本介入は%MRSA と発生率の両方に有意な効果をもたらしたという結論に達した。導入後の 6 年間で、本スクリーニングプログラムによって%MRSA はスクリーニング前のレベルより全体で 43%の長期間の低下がもたらされ(R2 = 0.687、ベイズ情報量規準[BIC]= 4.063)、およそ 0.56 症例/1,000 在院患者延数(R2=0.633、BIC = −3.063)の発生率の低下に変換された。抗菌薬または擦式アルコール製剤の消費量との相関は認められなかった。本プログラムの年間の費用対効果は、年間 QALY 獲得あたり 1,058 ユーロと計算された。

 

結論

入院時の普遍的スクリーニングおよび除菌の介入は、今回の流行性の高い環境において成功し費用効率も良かった。本介入は MRSA の有病率の改善を促進し、地中海沿岸地域にある病院ではめったに報告されない低下レベルを達成した。

 

サマリー原文(英語)はこちら

 

監訳者コメント

MRSA は医療関連感染の起炎病原体として、いくつかの先進諸国では減少傾向に転じているが、それ以外の国々では黄色ブドウ球菌に占める割合が50%程度であり依然として脅威である。英国では 2004 年以降入院時スクリーニングと鼻腔除菌を含む多面的な戦略により MRSA 菌血症を 90%減少させることに成功している。地中海に浮かぶ島国のマルタ共和国は人口 40 万人の国である。この国での MRSA 対策は、2008 年から 2013 年にかけ標的 MRSA スクニーニングを実施するも減少がみられず、EU 諸国のなかでも常に MRSA 比率で上位を占めていた。そこで、2014 年 4 月より政府は新方針を打ち出し、全患者の入院時スクリーニングを開始し、その結果を費用対効果を含め評価したものである。

 

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