1990-2021年における細菌性抗菌薬耐性の世界的負担:2050年までの予測による系統的分析
Global burden of bacterial antimicrobial resistance 1990–2021:
asystematic analysis with forecasts to 2050
掲載元:Lancet(2024)404,1199–226
掲載日:2024/9/28
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)01867-1/fulltext
今回は、2024年9月28日にLancetに掲載された論文をご紹介します。この論文は、1990年から2021年における細菌性抗菌薬耐性(AMR)の世界的負担を分析し、2050年までの予測を示しています。2021年には、AMRに関連する死亡が約471万人、直接起因する死亡が114万人と推定され、特に70歳以上で増加しています。将来の対策がなければ、2050年にはAMRによる死亡がさらに増加する可能性があります。
論文の要約
本論文は、1990年から2021年までの細菌性抗菌薬耐性(AMR)の世界的な負担を評価し、2050年までの予測を行った初めての包括的な研究です。AMRは21世紀における重要な世界的健康課題であり、これまでの研究は主に2019年AMR負担を地域ごとに評価してきましたが、長期的な傾向や将来の予測を含む包括的な分析は行われていませんでした。本研究では、22種類の病原体、84の病原体-薬剤組み合わせ、および11の感染症候群に関連する死亡数と障害調整生存年(DALYs)を204か国・地域について推定しました。
背景と目的
AMRは、抗菌薬に対する細菌の耐性が進行し、治療が困難になることで引き起こされる問題です。これにより、感染症による死亡や障害が増加し、特に低・中所得国で大きな影響を及ぼしています。2019年には、世界で約495万人がAMRに関連して死亡し、そのうち127万人がAMRによって直接的に死亡したと推定されています。本研究では、1990年から2021年までのAMRによる死亡率やDALYsの推移を分析し、2050年までの予測を行うことで、この問題に対する理解を深め、今後の対策に役立てることを目的としています。
方法
本研究では、多様なデータソース(死因データ、病院退院データ、微生物学データなど)から収集された5億2000万件以上の個別記録や分離株を使用し、統計モデルを用いてAMR負担を推定しました。これらのデータは、全世界204か国・地域について収集されており、22種類の病原体と84種類の病原体-薬剤組み合わせについて分析しています。また、本研究では2つの反事実シナリオ(すべての耐性感染症が感受性感染症に置き換わった場合、およびすべての耐性感染症が感染しなかった場合)に基づいてAMR負担を評価しました。さらに、2050年までの3つのシナリオ(基準シナリオ:最も可能性が高い未来予測、グラム陰性菌薬シナリオ:グラム陰性菌に対する新薬開発が進む場合、ベターケアシナリオ:医療品質と適切な抗菌薬へのアクセスが改善される場合)についても予測を行いました。
結果
2021年には、細菌性AMRに関連する死亡者数は471万人、そのうち114万人がAMRによる直接的な死亡でした。1990年から2021年までの31年間で、AMRによる死亡率には大きな地域差と年齢差が見られました。5歳未満児では50%以上減少した一方で、70歳以上では80%以上増加しました。特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による死亡者数は大幅に増加しており、1990年には26.1万人だった関連死者数が2021年には55万人に達しました。また、カルバペネム耐性グラム陰性菌による死亡者数も急増しており、この期間中に関連死者数は103万人に達しました。将来予測では、2050年にはAMRによる直接的な死亡者数が191万人(156万~226万人)、関連死者数は822万人(685万~965万人)になると推定されています。特に南アジアおよびラテンアメリカ・カリブ海地域でAMRによる死亡率が最も高くなると予想されています。また、高齢者層(70歳以上)で最も大きな増加が見込まれており、この層で全体の65.9%(61.2~69.8%)を占めるとされています。
考察
本研究は1990年から2021年までのAMR負担を初めて包括的に評価し、その結果から今後必要となる対策について重要な示唆を提供しています。特に5歳未満児で見られたAMR関連死の減少は感染予防策の重要性を示しており、一方で70歳以上で見られる増加傾向は高齢化社会への対応が急務であることを強調しています。また、本研究では将来的なシナリオ分析も行い、新しい抗菌薬開発や医療アクセス改善によって多くの命が救える可能性が示されています。
※年齢層別に1990年から2021年までのAMR関連死亡数の推移を示しています。5歳未満の子供におけるAMR関連死は減少し、70歳以上の成人におけるAMR関連死は増加しています。
図3 AMRに起因する10万人当たりの死亡率、全年齢、1990年、2021年、2050年
※世界地図や地域ごとのチャートを用いて、AMR負担の分布と強度を示しています。2050年までに南アジアやラテンアメリカでAMR関連死亡率が最も高くなると予測されていることがわかります。
結論
本研究は細菌性抗菌薬耐性(AMR)の世界的な負担について過去30年間の動向と将来予測を示し、その結果から感染予防やワクチン接種、不適切な抗生物質使用の削減、新しい抗生物質開発など、多角的な介入策が必要であることを強調しています。特に、高齢者層への対策強化やグラム陰性菌への新薬開発が今後重要となります。