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Date:
2025.06.11
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CLEEN研究:クリネル ユニバーサルワイプを使用した研究報告(費用削減効果)

今回は2025年4月、JAMA Network Openに掲載された論文「Economic Evaluation of Enhanced Cleaning and Disinfection of Shared Medical Equipment(共有医療機器の洗浄・消毒強化に関する経済的評価)」は、2023年に実施されたCLEEN研究(Cleaning and Enhanced Disinfection研究)の費用対効果を詳細に分析したものです。

本研究は、「清掃への投資」が単なる衛生管理ではなく、病院経営と患者安全の両方に大きく貢献する費用節約型施策であることを数値で実証しました。この研究成果は、限られた医療資源の中で患者安全と経営効率を両立させる方法として、世界中の病院で活用できる貴重なエビデンスです。

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共有医療機器の洗浄・消毒強化に関する経済的評価

掲載元:JAMA Network Open. 2025;8(4):e258565. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.8565
オリジナルリリース
掲載日:2025/4/10

研究背景と目的

オーストラリアの病院では、医療機器を介した院内感染(HAI)が年間約16.5万件発生し、7,500人の死亡に関与しています。しかし、清掃や消毒の強化がどの程度感染症を減らし、費用対効果があるかは明確ではありませんでした。CLEEN研究は、共有医療機器の洗浄・消毒を強化した場合の感染症減少効果と費用対効果を評価することを目的としています。

研究方法

・対象は、オーストラリアの大規模病院10病棟に入院した5,002人の患者(2023年3月~11月)です。

・通常清掃(臨床スタッフが実施)と、強化清掃(専門スタッフが追加3時間清掃・教育・監査を実施)を比較しました。

・感染症発生数、費用(人件費・消耗品・入院日数など)、増分費用対効果比(ICER)を評価指標としました。

・感染症の診断にはECDC(欧州疾病予防管理センター)基準を用い、2週間ごとに全患者を調査しました。

分析手法と仮定

・意思決定木モデル(*)(図1)を用いて、各患者がどの感染症にかかるか、その場合の入院日数や治療費などを分岐で表現しました。

・1人の患者が1回の感染しか起こさないと仮定し、退院後や社会的コストは分析対象外としました。

・36週間の試験期間内のデータのみを使用し、長期的な割引計算は不要としました。

図1.患者の可能な移動経路を示す決定木モデルpng

図1. 患者の可能な移動経路を示す決定木モデル

通常ケアの分岐は介入群と同じである(すなわち、同じ感染症を含む)。複雑さを減らし、視覚的解釈を助けるために、この決定木からは省略されている。BSIは血流感染症を示す;EENT、耳、眼、鼻、口、喉の感染症;GI、消化器感染症;GI-CDI、消化器感染症 – クロストリディオイデス・ディフィシル;LRI、下気道感染症;PN、肺炎;SSI、手術部位感染症;UTI、尿路感染症。その他には、心血管系感染症、EENT、皮膚または軟部組織、および全身性感染症が含まれる。

主な結果

・1,000人あたり、通常清掃では130件のHAIが発生したのに対し、強化清掃では100件に減少しました。

・費用は、通常の清掃で約215万豪ドル、強化清掃で約151万豪ドルとなり、1,000人あたり約64.2万豪ドル(約6,420万円※)のコスト削減となりました。

・384日分の余剰ベッド使用を回避できました。

・モンテカルロ・シミュレーション(**)による感度分析でも、90.5%以上の確率で「強化清掃の方がコスト削減になる」と示されました。

※1豪ドルAUD=100円換算(論文執筆時点2023年:1豪ドル≈0.65米ドル)。

不確実性とシナリオ分析

・感染症発生率やコスト、入院日数のばらつきを考慮し、確率分布を設定したうえで1,000回のシミュレーションを実施しました。

・高価な生分解性ワイプ(***)を使った場合でも、全体のコストに占める割合が小さいため、依然として「強化清掃の方がコスト削減かつ感染症減少」という結果になりました。

・強化清掃による感染症減少効果を半分に設定した場合でも、83%の確率でコスト削減、感染1件あたり2万豪ドルの価値を認めるなら94%の確率で費用対効果があると示されました。

考察と結論

・共有医療機器の清掃・消毒を強化することで、HAIを減らし、病院のコストも削減できることが示されました。

・環境に配慮した生分解性ワイプを使用しても、コスト削減効果は維持されました。

・強化清掃による感染症効果が半分になった場合でも、多くのケースで費用対効果が高いことが示されています。

この方法を広く導入すれば、患者の安全向上と医療資源の効率化が期待できます。

【用語解説】

(*)意思決定木モデル:患者がどの感染症にかかるか、またその場合にどれくらい入院日数や費用がかかるかを、枝分かれの図(木構造)で表現する方法です。たとえば、「感染しない」「肺炎になる」「尿路感染になる」といった複数の分岐があり、それぞれの確率やコストを計算できます。これにより、清掃強化の有無による全体の感染症数や費用を比較できるようになります。

(**)モンテカルロ・シミュレーション:現実には感染症の発生率や治療費などが毎回同じとは限らず、ばらつき(不確実性)があるため、その影響を考慮するための方法です。具体的には、感染率やコストなどの値を確率分布として設定し、コンピューターで何百回もランダムにシミュレーションを繰り返します。こうして「強化清掃がどのくらいの確率でコスト削減になるか」など、現実に近い幅を持った結果を得ることができます。

(***)生分解性ワイプ:使用後に自然界の微生物の働きによって分解され、水や二酸化炭素、バイオマスなどの無害な成分に変わるよう設計された消毒用の使い捨てワイプです。普通のワイプより消耗品コストはやや高くなります。

モレーン学術グループ

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